7月21日台風の悲劇と未だ見ぬ楽園

 とんでもない計画に誘われてしまった。「硫黄鳥島」この島の名前を知っている人がはたしてどれだけいるだろうか?第2の粟国?いやそんなレベルではない。そこは絶海の孤島、沖縄の遙か北にある真の無人島なのだ!!無人至周囲紺碧荘厳一面鮫鯵鯖鮪他大物群魚感動感激胸一杯絶対保証人生宝無疑問、とこれぐらいすごいのだ!

 なんと言ってもその場所がすごい。地図をよく見て欲しい。僕なんか地図を見ているだけでわくわくドキドキ血は滾るし、肉は踊るし、頭はパニック状態なほどの興奮をしているのだ。こんな経験はそうできないだろうし、もしかしたら人生最後の楽園ツアーになるかもしれない。そうだ、せめて海パンぐらいこの日にあわせて新調しよう。僕はその日の夕方にサンエー(沖縄に多くあるディスカウント系スーパー)に走り15%OFFの群青色の海パンの購入に踏み切ったのだ!!なんのこっちゃ!?

 のっけからえらい興奮気味の文章になってしまった。トロピコオーナー山本さんに、この話を持ちかけられたのが忘れもしない6月14日、それまで名前は知っていたが、まさか本当にそんなチャンスがくるとは思ってもいなかった。硫黄鳥島は、沖縄本島から100km以上北に位置するまさに絶海の孤島だ。以前は硫黄採取の為に住民がいたらしいが、現在は無人島。もちろん海は手つかずの自然界そのもの。(らしい)場所的に考えても海の中は想像を絶する。こんな所でダイビングができるなんて考えただけでもすごい。

 パラオやモルジブなんて、お金を出せばいくらでも行けるが、こんなところはそうはいかないのだ。もちろん僕は二つ返事でOKした。スタッフが羨ましがるだろうなぁ。 次の日から、この日程に合わせて仕事を休むための、地道な調整作業が始まったのは言うまでもない。

 ところが、まいった。なんだこれは!!通常7月と言えば台風もなく、海は最高のコンディション。風は心地よく、海は凪、魚は舞い踊る最高のダイビングシーズンのはずなのに!!5・6・7・8・9・10・11号と連続7連発の台風じゃないか!!予定はあえなく中止。今回の「ダブン」は台風の合間をぬって7月21日の日曜日のダイビングとなった。

 しかし、この計画は全くの中止ではない。オーナー山本氏はリベンジを計画中!8月は「ダブンと絶海の楽園で、いーだろーざまぁみろ、こんなすげーところでダイビングだぞ!と海に飛び込む特別編」となることを期待して下さい。それとこの企画なんと一般客もちろんOK!日程も参加費用もはわからないけれど、可能な人は是非参加しよう!!えらいいーかげんなツアー紹介ですみません。


硫黄鳥島の場所 タートルベイの船上から
硫黄鳥島の場所 タートルベイの船上から


 阿嘉島の港はほんとに美しい。何度もケラマの海には来ているのだが、今回はその景色に感動した。入り組んだ慶良間諸島の中央に位置する阿嘉島の港は、浅い水路を抜けていく途中に位置する。今回は阿嘉島の西側のポイント、タートルベイに向かったのだが、ここに行く途中通過するのが、この水路だ。水深が浅く舳先で海を見ていると、水底がはっきりと見える。座礁しないようにコースを見極めながら船はゆっくりと進む。青い空と白い雲、深い紺色の海を遠くに、眼下は煌めく珊瑚の緑色と、太陽の光を受けて輝く水面。左右には緑生い茂る小さな島々、黒褐色の岩肌には、白い毛なみが美しい野生の山羊。沖縄の夏は単純な色の組み合わせだ。そのどれもが、生き生きと生命の力強さを、これでもかと主張する。元気のパワーを十分に与えて貰った。

 タートルベイ、ここは白い砂地に点在する根をのんびりと見て回るダイビングだ。今回のツアーにはなぜか子供が3名参加してる。ダイビングのライセンスは16歳からだと思っていたので、たぶんスノーケリングか、船上でお父さんのダイビングを待っているのかなぁ、と思っていたら、ウェットスーツに器材の準備を始めた。聞けば一人はジュニアダイバー、ライセンスを持っているのだ。PADIのジュニアは10歳から取れるそうだ。

 あとの2人は体験ダイビング。これも10歳から可能だ。こんな小さな頃からダイビングができるなんていいなぁ。一緒に潜ったが、ジュニアダイバーはスキルもいいし、まるでストレスもなさそう、ほんとに楽しんでいた。

 このポイントは静かな湾なので、体験向きだが、ベテランでも結構楽しめる。先月のダイビングではいまいちだったスカシテンジクダイやキンメモドキ、アリガーのポイントに負けない大群で登場だ。こんなポイントで潜っていると、何時まででも水中にいたくなる。そうだ今回は久しぶりにカメラを持ってのダイビングとなった。ハウジングがそろそろ歳なので、若干心配ではあったが、最後まで問題もなくただただのんびりとしたダイビングを楽しんだ。

 海から上がると猛烈な空腹に気が付いた。2本目はパスして昼飯だ。ただのおにぎり弁当だが、こんな時はこの上もなく旨い。その後は久しぶりのスキンダイビングを楽しんだ。


ダブンの瞬間 スカシテンジクダイの群
ダブンの瞬間 スカシテンジクダイの群


 2本目は野崎北、野崎はよく潜ったポイントだが、ここはなぜか初めて。野崎は珊瑚で有名なポイントだが、僕にとっては最悪の思いでがあるところだ。
 あれは確か1994年8月18日、台風の接近に伴い海は大きくうねっていた。明日は確実に無理。僕は某ショップのツアーに参加し、「SS」という船でケラマに向かっていた。当時は今のようなダイビングクルーザーは少なく、殆ど漁師が操船する漁船タイプの船でのダイビングがだ。もちろん、その船もダイビングショップが所有する船ではなかった。そして船の整備不良による故障も少ないことではなかったのだ。そのお陰で、めったにないような、ひどい目にあってしまった。

 出航後、波は高いものの、船酔いとは無縁の僕はいつもの調子で過ごしていた。ところが港を出て40分、エンジンの音がおかしい。やがて船長がエンジンルームに潜り込み格闘を始める。治ったかなと思うと又止まる。そんなことを繰り返しながらむなしく30分が過ぎた。そしてエンジンは二度と音をあげなくなった。船は完全に止まってしまったのだ。多少荒れた海でも軽快に走っていればそれ程でもないのだが、止まってしまうと大変だ。船は木の葉の様に水面を上がったり下がったり、普通の人間ならまともに動けなくなる。「すみません。」スタッフが頭を下げるが、聞く気にもならない状況だ。殆どの客は死んだように横たわっている。船は風に流されるままになった。いわゆる漂流だ。

 風邪は東から西へ、船はケラマ諸島へ流されていった。やがて前島が現れ、海にアンカーを入れ船を留める。そうしなければ座礁してしまうのだ。しかし、そのぶん船は更に激しく振り回される。もう、まともに生きている心地がしない状況だ。船酔いの経験がない僕も気分が悪くなってしまった。スタッフは本当に申し訳なさそうな顔をしているが、そんなこと気にできる余裕はだれにもない。

 やがて12時を迎える頃、やっと救助の船が来てくれた。「STN」という船だ。この船に乗り移ればダイビングツアー再開だ。しかし荒れる海で二隻の船が近寄るのは、あまりにも危険だ。どうやらとても二隻を横付けできる状況ではない。ということは、助けに来た船に乗り移ることは不可能なのだ。検討の結果、船をチービシまで移動し、島影でダイバーたちを「STN」に移すことになった。

 次に、曳航するためのロープの取り付けだ。「STN」はできるだけこちらの船に近づき、スタッフがロープを投げる。近づき過ぎると船が衝突してしまう危険がある。衝突が致命的なら、沈没にもなりかねない。だが、2隻の船が激しく揺れるので思うように投げられないのだ。ロープは何度投げても届かなかった。「STN」は近づいては離れ、離れては近づき、スタッフは何度も何度もロープを投げた。しかし、その努力は、むなしく波にのまれてしまった。

 この状況を解決するために、ついにスタッフの一人が海に飛び込んだ。飛び込んだ瞬間その姿を波が飲み込む。僕たちは息をのんでその姿をさがした。「あ!」と言うのが精一杯だ。消えては現れ、現れては消えるその姿は、感心するより恐怖を感じた。ロープを持った彼が「STN」に上がった事を確認できるまで、10分以上は掛かっただろう。勇気あるスタッフに驚いたものだ。

 スタッフの悪戦苦闘の結果、船の曳航が始まった。しかし、この曳航がまた本当に大変だった。何しろ20名以上乗る巨大な船を曳いていくのだ。前の船は波に合わせてコントロールできても引かれるほうは、もうなすがままだ。波頭にぶち当たるのも避けようがない。船をつなぐロープは50mほどだっただろうか。そのロープが波に隠れては現れ、一瞬たるんだかと思うと、次の瞬間猛烈な勢いで水をはじき返し、パーンと張りつめる。舳先にあたるロープがギシギシ音をたてる。ロープが何時切れるかもわからない。「速すぎる!」「もっと右だ」「ロープがきれるぞ!」叫び声も、雨と風と船を揺さぶる波の音で殆ど届かない。

 午前中よりも更に荒れてきた海をロープに引かれ、目的の島影に着いたのは午後1時を過ぎた頃だ。でもまだ安心できるような状況ではない。船と船を着けるのはかなり危険な状態なのだ。波の力で2隻の船は離れたり、ぶつかり合ったり、その合間をみて乗り移るのだ。かなりの度胸が必要だ。もしその隙間に飲み込まれたらおそらく命はないだろう。船の舷側はぶつかり擦れ、「ギイャー」「グググッ」「ガッガガッ」と悲鳴を上げる。やっとの思いでスタッフとダイバー客全員が「STN」に乗り移り、「SS」は遅れて到着した別の船に曳かれ那覇へ向かった。

 「STN」は、驚いたことにクルーザータイプのかなり立派な船だった。「こんな船でダイビングなんて最高だなぁ!」なんて思えるほどの船だ。キャビンにはテーブルを囲むソファーがあって、バーや寝室まであるのだ。こんな形で乗るなんて悲しいなぁ。殆どの客はキャビンで死んだように横たわっていた。

 船が走り始めると、以外に快適だった。船も良かったのだが、まともに走ることができれば、それ程ひどい海ではなかったのだ。ショップのスタッフが「ダイビングしますか?」と聞いてきた。以外にも全員がダイビングを希望した。そして向かったのが「野崎」というポイントだ。

 これで終わりなら、僕にとって、最悪の経験ではなかった。船には慣れている僕も、かなり興奮状態対にあったのだ。野崎ポイントに到着、いつもなら必ずやるカメラのハウジングのチェックを、怠ってしまったのだ。なんたる偶然か、ハウジングのOリングに異物がはさまっていたのに気づかずに海に入ってしまったのだ。いつものように潜行する途中で、激しく泡をふく水中カメラ。慌てて浮上するが、時すでに遅し、ハウジングのロックを外し中を開けると海水が溢れでてきた。完璧な水没だった。泣きそうになったね。

 被害総額数十万。「もうダイビングなんかするもんか!」そう叫びながら、涙で曇るマスク越しに見ていたのは野崎の珊瑚だった。(なんだ、潜ってるじゃないか!)と言うわけで野崎は最低のポイントになってしまったのだ。いやー長い文章になってしまった。

 しかし、今回は良かった。もう、ほんとにすばらしかった。水中に差し込む光のすばらしいこと!360度何処を見ても光のカーテン状態なのだ。その上、スルルの群の美しく輝くこと!写真も撮ったが、これでは全然あの良さは伝わらないと思う。まさに筆舌に尽くしがたい!だからこれ以上書けない!!


スカシテンジクダイ スルル
スカシテンジクダイ スルル


  いやはや、今回は良いダイビングだった。こんな話を聞いたことがある。釣りは、魚が釣れれば楽しいけど、もし釣れなくてもやっぱり楽しい。でも、もし必ず釣れるとわかっていたらそれ程楽しくはないだろう。

 今回のダイビングでは大物はなし。カメもマンタもイソマグロもサメもなし。スリリングなドリフトでもなければ、ダイナミックなドロップオフもない。あったのは、普通の沖縄の海と普通の沖縄の太陽の光だ。でも最高の海だった。帰りは船の2階席で、海を眺めながらクルージングを楽しんだ。あぁ、海よ今日もありがとう。

文・写真 流離のナイチャーダイバーF


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