9月27日 タイマイと激流の海へ

 今回も又月末のダイビングとなってしまった。9月は上旬にとんでもなくでかい台風の直撃を受け、私の自宅も、なんと25時間に及ぶ停電となり、更に窓から噴水のごとく噴き上がる雨水にと、えらい大騒ぎとなってしまった。しかし、私がクーラーのきかなくなった湿っぽい部屋で、泡盛を飲んでいる頃、トロピコのスタッフはとんでもない状況と必死に戦っていたのだ。
 台風が上陸した9月4日、この夜の風はほんとに猛烈で、スタッフは港付近で某宅配便の大型トラックが風で転倒したのを目撃している。そう、この夜もトロピコスタッフは交代で港の番をしていたのだ。
 トロピコ号は図のような港に係留してあるので、北からの海風には強い。しかし、わずか幅3メートルほどの突堤は、猛烈な波飛沫で、殆ど見えない状況だ。この突堤に船の舳先をつなぎ止めるのだが、万が一このロープがゆるんだり、ましてや切れてしまったら、大変な事が起こるのは明らかだ。ロープは何本も張っているので、1本くらい切れてもという気もするが、1本切れればそれだけ他のロープに負担が掛かる。横の船にぶつかることでひび割れや、裂け目でもはいろうものなら、水没の危険性さえあるのだ。現に他の港では、今回の台風で沈没した船もあるのだ。


 港には多くのダイビングショップの船があり、それぞれのショップのスタッフが見張り役にきている。波飛沫と、たたきつける雨風で、見張りのバンがあるところからは、船もよく見えない状況だが、ロープがゆるんでいないか、切れそうになっていないか、そればかりが心配だ。
 後で聞いた話だが、他のショップのスタッフが、この突堤を進み舳先につながれたロープを確認しに行ったらしい。「危険だからやめなよ」とかける声もあったが、2人のスタッフはウェットスーツを着てフィン・マスクを着け突堤を這ってロープの確認に行ったというから驚きだ。

 僕も台風が来る前日にこの突堤を歩いてみたのだが、波飛沫が立たない状況でも、先まで行くのはかなり不安だった。2人は無事戻り、ロープがしっかりつながれていたことを報告したのだが、いやはや、ダイビングショップのスタッフはほんとに危険な仕事なんだなぁ。




 さて今回のダイビング、天候もよし、海もかなり落ち着いた状況、僕もそれなりに期待を掛けてのダイビングツアーだ。いつものように8時半港に集合。晴れ渡る空には、8月のそれとは明らかに違う秋の気配を感じる白く細い雲のすじ。程良い暑さと風が実に心地よい1日のスタートだ。
 今回も総勢20名を越すダイバー達を連れ、トロピコ号は出航の準備。スタッフは余裕の態度をとりながらも、ピリピリとしたところが感じられる、当然の事だろう、ダイビングは安全な遊びではあるが、それは万全の準備があってのことだし、海は何がおこるか誰にもわからない、万が一のことはいつでもおこる可能性があるのだ。スタッフは常にそのことを忘れてはならない。100%安全を確保できるように、最大の準備と計画を立てて海に出なければならないのだ。
 出港時は特に重要だ。海の状況を判断し、ダイバー達の情報を知ることはもちろん、あらゆることに備えておかなければならない。スタッフは緊張の表情を隠し、明るく振る舞いながらも真剣に仕事をこなしていった。さあ、9時をまわった、出航の時間だ。


カクレクマノミ ガイド:山エミ
カクレクマノミ ガイド:山エミ


 写真はいきなり、可憐な「カクレクマノミ」と豪快に男らしいガイド「山エミ」の、水中Vサインで始まる。冒頭の緊張感溢れる下りとえらいギャップだ。水中でスタッフにカメラを向けたときポーズをとるのは、余裕をかましているか、何も考えていないかのどちらかだ。

 今日の一本目は渡嘉敷島の東側にある「アラリ」、ここは私もあまり入ったことがないポイントだ。ケラマ諸島全体で見ると外側になるので、海が穏やかであることはもちろんだが、ポイントの西側に島があるので、午前中でないと水中まで陽が差し込まない。日陰になると水中はやはり暗くなるので、やはり美しさは「いまいち」というカンジだ。でも今日は最高の天気、期待できます。
 エントリーすると水底は砂地で、あちこちに珊瑚の根がある。差し込む光が砂地を照らし、海水のうねりで作られた波模様が、実に美しい情景を作り出す。

 僕のグループはガイドの山エミに北海道から来たという3人組、若いカップル、そして僕の7名だ。北海道ダイバーの一人I氏は何度も沖縄に来ているベテランで、いろいと話を聞かせてもらった。
 まず、興味があったのは、あの寒い北海道でダイビングが普通にできるのかということだ。彼曰く、なんと水温4度の海に潜るというのだ!!それも特殊な、つまりインストラクターレベルの人の話ではなく、一般のファンダイバーが冬でも普通に潜ると言うからすごい。聞いているだけで寒くなるではないか。僕の経験では14度の海が最も低温だが、14度でもむちゃくちゃ寒い。まぁドライスーツなので、身体はまだしも、顔は痛くなってやがて感覚がなくなる。ある友人は7度のプールでインストラクターの講習を受けたと言っていた。それでかなり驚いていたのだが、果たして4度の海でファンダイビングなるのかなぁ。さむそー

 このポイントは、のんびりダイビングできる良いポイントだ。初心者でも十分OK。だが、僕ら山エミチームはアンカーを入れたポイントからのドリフトダイビングだ。少し先に入ったチームを船で拾い上げ、山エミチームを船が追いかけてくるというスタイルなのだ。当然広範囲にわたってダイビングを楽しめるのだが、ガイド山エミはなんだか泳ぐのが大好きで、もう泳ぐこと泳ぐこと、えらい遠くまできてしまった。そして、そのお陰で出会えたのが「タイマイ」だ。

 「タイマイ」名前だけで、はそれが何なのかすらわからないが、実はウミガメなのだ。ウミガメは「アオウミガメ」「アカウミガメ」「タイマイ」この3種が沖縄のダイビングでもよく見られている。どれも絶滅危惧種で、ワシントン条約で保護されている。もちろん捕獲も飼育もできない。特にこのタイマイは、甲羅が非常に美しいため、鼈甲(べっこう)の材料とされてきたカメで、3種のなかでも絶滅のおそれが高いそうだ。
 そんな希少なカメに出会えるとはラッキー。幸いうまく写真におさめることができた。写真はその時の「タイマイ」と2本目に撮影した「アオウミガメ」だ。一つ残念なことは、このタイマイずっとお腹を見せるように泳いでいたので、美しい甲羅を見ることができなかったことだ。それでもタイマイの特徴である甲羅の縁のギザギザがはっきりと確認できる。
 ちなみに英名はHAWKBILL TURTLE (鷹のくちばしを持つカメ)確かに立派なくちばしをしている。調べてみると日本での産卵地は八重山諸島のみとあったが、このタイマイはどこから来たのだろう。遙か数百キロを泳ぎ八重山から来たのか?あるいはこの慶良間に産卵地があるのだろうか?タイマイはわずか数十センチの所まで近寄り、その特徴有るくちばしを誇らしげに見せた後、何処へともなく泳ぎ去っていった。興奮だけがのこった。
 カメが去っても、僕たちは流れのない、ドリフトダイビングを続け、ひたすら泳いでいった。水深も浅かったのでエアーも十分だ。静かな海中をたっぷり堪能して、船に戻った。


タイマイ アオウミガメ
タイマイ アオウミガメ


 2本目は「運瀬」!やったー!!!久しぶりです。ここはいいポイントなんだ。「運瀬」は渡嘉敷島の東側にある小さな島、いや島とは言えないか、わずか数メートルの岩山が水面から突き出ているところだ。北側からの潮が岩にあたり左右に流れる。南側の、流れがもっとも弱いところでのエントリーするのが一般的だ。周りは一面海、深度もかなりある。こういった地形には必ず大物がいるものだ。
 山エミ曰く、「ケラマ3大ポイント一つです。」3大ポイントとは運瀬・下曽根・トムモーヤだそうで、何処も確かに素晴らしいポイントだ。エントリーは全員そろって「いちにのさん」で飛び込むスタイル。ちょっとした緊張感が楽しい。

 水中に入ると、いきなり足下にイソマグロがいるではないか!!「まだはやいよ!カメラの準備ができてないよ!」そう思いながら足下の巨漁を眺める。やっぱ運瀬はすごいな。エントリーした所の流れはほどほどだ。山エミの後をついて移動開始。あちこちにイソマグロやギンガメアジが現れては消えていく。アオウミガメもあらわれた。このあたりは、まだ流れも弱くカメの姿もしっかりカメラに収めた。
 しばらくすると、何処かで水中ホイッスルの音が激しく鳴った。振り返りあたりを見回すと、サメだ。しかも背鰭の先が明らかに黒い。メジロザメの一種、「ツマグロ」に間違えはない。メジロザメは、どちらかと言えば噛むタイプのサメだ。沖縄でサメといえば、おとなしい「ネムリブカ」を指すのだが、こいつはその姿が明らかに違う。顔はよく見ることができなかったが、美しい姿をしていた。見る間に遠くへ泳ぎ去って行ったのだが、向かってこられてもちょっとこまるな。
 船にあがってから聞いたのだが、実はもっとすごいことが起こっていたのだ。前述のI氏、一人小さな穴を覗いていたところ、このツマグロがいきなり飛び出してきたのだそうだ。サメのほおの部分が、身体に接触したというからすごい。I氏もかなり驚いただろう。

 移動にしたがって、流れはどんどん速くなってきた。右手にカメラを持っていたので、海底を掴むのは左手のみ、結構しんどいな。運瀬は深度があるせいもあって、水中の雰囲気が暗いのが難点だ。流れはもちろんだが、この暗さは写真撮影向きのポイントとはいいがたい。ここで見られる魚は様々だが、僕のお気に入りの一つは「バラフエダイ」だ。黒っぽくてなんてことはない魚なのだが、50cm以上はあると思われる魚が100匹もの群をつくって泳いでいく様は、迫力があって実に見応えのある光景だ。今回見つけた群は遙か足下、深度30メートル以上のところを泳いでいた。写真を撮るために近くまで寄りたかったが、残念ながらあきらめた。それでも、群の迫力は十分伝わった。
 先へと進んでいくと、潮の流れはさらに速くなってきた。山エミが残圧を聞いている。激流で、深度もあるのでさすがに僕にエアーもかなり少なくなっていた。山エミは全員の残圧を確認すると、更に激流の中を進んでいく。猛烈な流れだ。岩山を登るように進んだ所で、移動停止。ここでしばらく沖合をながめ大物を待つ。再びイソマグロが現れては消えていく。その姿を眺めてはいたが、写真を撮れるほどの明るさと距離がたりない。もっともカメラを構えても、水圧で顔の前に持ってくることができないだろう。

 山エミがしきりに手で合図を送っている。「3、2、1で手を離して流れていきます!」指を3、2、1と折り、「岩から手を離し流れていくよ」と何度もダイバー達に伝えた。3回ほど合図を送っただろうか、やがて全員に意味が伝わったようだ。「いきますよー」山エミの手振りをみていると、まるで声がきこえるようだ。そして本番だ。「さん!」「にい!」ダイバー全員の緊張が水を通してわかるようだ。「いち!!」立てた指が2本から1本になる時には、山エミの身体は水中に浮いていた、僕もそれにあわせ左手を離す。ダイバー達はそろって中層の流れに身を任せた。



 「いやーよかったねー」一緒に潜ったダイバー達と言葉を交わした。ほんと素晴らしいダイビングだった。ダイビングの内容も確かに良かったが、船にあがり、仲間のダイバー達とその話をするのは実に楽しい、水中では話ができないだけに、船に上がると、とにかく話をしたくてしょうがなくなる。「良かったね」「すごかったね」それだけで心が伝わる気がするのだ。同じ感動を共有した気持ちは何事にも代え難い。久しぶりの激流ダイビングは、大物てんこ盛りのダイビングとなった。


山エミと流れる気泡 安全停止中記念撮影
山エミと流れる気泡 安全停止中記念撮影


 みんなで中層を流れて行くのは、結構たのしいな。船に上がるため、かなり沖まで流されていった。写真は安全停止中に、山エミが僕のカメラで撮影したものだ。ちなみに右端が筆者、中央上がI氏だ。今回潜った「運瀬」というポイントは、僕にとって思い入れの深いポイントだ。ほんとに流れが強いので、初心者にとってはちょっと辛いダイビングになるかもしれないが、スキルアップして是非ともチャレンジして欲しいものだ。
 帰りは、トロピコ号の2階運転席で太田丼や井出君と話をしながら、那覇に向かった。今日も安全にダイビングを終えたスタッフは、朝とは違う穏やかな表情をしている。彼らもこの時間が一番リラックスしているようだ。おそらく、疲労感と充実感で一杯なのだろう。風になびく横顔は、まさに海の男達だ。今日は海と男達と大物にありがとう。また、いつかこの激流にダブンと飛び込もう。

文・写真 流離のナイチャーダイバーF


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