12月 コブシメの季節

 沖縄の12月は、まだまだ冬というイメージではありません。もちろん8月の強烈な日差しに比べれば、太陽はすっかり元気がないのですが、それでも晴れの日には青空と輝く水飛沫を楽しむことができます。
 海は季節の変化を受けて、さまざまな表情を見せてくれます。基本的には北風なので夏のような凪ぎは期待できないのですが、慶良間までのクルージングは辛いことではありません。水中ではコブシメが現れ産卵が始まります。そして冬の主役ザトウクジラもこの時期に初めて確認されるのです。今年も12月中旬最初の1頭が姿を見せてくれました。
 海が荒れて船を出せない日もありましたが、偶然にも最高の1日にダイビングをすることができました。



 窓を開けるとわずかな南風、青空が見える。いい日だ。港へ向かう泊大橋から見る慶良間への海はわずかに白波が見える。凪ぎとはいかないが悪くない海だ。この時期はまだ水温もそう低くはない、フードベストをつければ、水中で寒い思いをすることもなくダイビングが楽しめる。

 そろそろ、コブシメの産卵が始まっているらしい。それにクジラの噂もある。水中で声が聞けるかも知れない、冬場のみの楽しみだ。コブシメはコウイカの一種で、かなり大きな種類だ。その迫力もさることながら体色の変化がすごい。右半分は求愛用、左半分は攻撃威嚇用などと驚異的なこともできるが、通常はカモフラージュ、周りの景色に合わせてサンゴや岩のように見せるのは朝飯前、実際に体の形すら変えてしまう。中層に浮かぶ白い姿と岩場でのごつごつの茶色い姿とはとても同じ生き物とは思えない。生き物の能力は素晴らしいなぁ。さすがにこんな力は人間にはないからなぁ。 。

 港に着くといつもの通りスタッフが準備に取り掛かっているのだが、夏ほど多くダイバーが集まるわけではないので、ちょっとばかりのんびりムードだ。船のデッキも広々と使えて気分がいい。慶良間へのクルージングは程よい波の中、快調に滑り出した。


 12月とはいえ土日にはそれなりの数のダイバーが集まる。天気がいいと気温も上がるし太陽の日差しも本当に強い。スタッフは8月の頃から比べると白くなってきているが、それでも髪は金髪混じりで一言で言えば黒い顔だ。森ちゃんはいつどこであってもテンションが高く話していて楽しい。
 男の場合は、黒い肌・色の落ちた髪・流れる汗は一言で言うと「海の男」だ。トロピコのスタッフを憧れの眼差しで見る女性客も多いのは有名だ。僕は男にはこれっぱかりも興味はないが、海で見るスタッフは実際かなりかっこいい。
 差別をして言うわけではないが、女性の場合はなかなか問題もある。トロピコには現在海に出る女性スタッフはいないのだが、周辺の関係ショップには数多くの女性スタッフがいる。太陽の日差しと潮水は男女の区別なくその影響を与えるので、髪はバサバサになるし、肌は荒れ放題、もちろん化粧なんてできない。タンク運びが日課なので腕っ節は当然強くなる。着るものは水着プラスが基本なので、ミニスカートやワンピースなどとは縁がなくなってしまう。中には完全に女を捨てたかのようなガイドもでてくるわけだ。





 1本目は慶良間諸島の南に位置する大物ポイント、ここは回りに目標物がない。通常のダイビングポイントは、ほとんどが島のすぐそばにあるので、場所がわからないということはありえないし、そうでなければ岩が飛び出しているものだ。しかしここはその飛び出した岩が水面までに達していないのだ。周囲は全て海、慶良間の島ははるか北方に見える。
 今はGPSがあるので、場所がわからないなんて事はないのだが、昔は「山立て」といってどの方角にどの島が見えて、どの方向にはどの島が見える、ということから海の場所を特定していた。 。



 10年以上前のことだが、小さな船で来たときは、さんざん時間をかけてこのポイントを探したものだ。透明度がいいので、近くまで来ればその根を船の上からでも見ることができる。そこでスタッフがアンカーとともに海に飛び込み、水中の根にロープをかけてくる。回りは水深50m以上になるだろう。そんなところなので、流れも速い。ゆえに大物すなわち回遊魚が集まる。もちろんグルクンなども多く、ここで追い込み漁をやっていたのを目撃したこともある。

 さて今回は期待の持てるコンディションだ。流れがあるのでアンカーロープを伝っての潜行だ。こういった流れの強いポイントではエントリーが緊張の一瞬だ。一人でも流されてしまうとダイビングを中断し、流されたダイバーを救助しに行かなければならない。ダイビングのレベルも当然中級以上に限定される。少人数で、レベルがそろっている時だけ入れるポイントなのだ。
 さすがに素晴らしい、何度も入ってはいるのだが透明度と魚影の濃さが違う。海は港すなわち閉鎖された海では当然透明度が悪くなるが、ここはほとんど外洋なのだ。グルクンが群れをなし、泳ぎ回りイソマグロがすぐ目の前までやってくる。思えば数年ぶりだった。やはりここは素晴らしい。


 ボートに乗ってすぐの気がついたのだが、ゲストの中にかなりいい感じの女性がいた。25あるいは6歳くらい細身で小柄、身長は150くらいかな、それでも雰囲気は十分に大人の女性だ。真っ黒の髪がサラサラと風になびいている。肌は抜けるように白い。
―かなりいい感じ、僕の好みだなぁ。
いや待てよ、どこかであってる気がするなぁ、こんな可愛い女知り合いにいたかなぁ…
その瞬間目が合った。彼女は笑顔を見せて両手を振ってきた。
―えっ?!やはり僕を知っているらしい。僕の名前を呼んでいる!
「藤井さ〜ん、久しぶり!!」
―やばいなぁ、だれだっけ?いや待てよ、沖縄で会ってる気がする。又いつものパターンで、何度か沖縄に来ているダイバーなんだろうなぁ。どうして僕は人の顔と名前を覚えないんだろうな。でも、これほどの女性なら覚えていてもよさそうなものだ。
 僕は明らかに驚いた表情を見せてしまった。
「藤井さん、私のこと覚えてないんでしょ」
「いや、覚えてるよ…」
―とりあえず知ってる振りをしておこう。
まったく、なんてことだ。






 2本目のダイビングも良かった。とにかく今年は魚が多い。春先からキビナゴやらツムブリやらムロアジやらと群る魚はほんとにたくさんいるし、カメも一度に10匹も現れるほどだ。一時期より沖縄の海が豊かになってきたのではないだろうか。渡嘉敷島で何十年も漁師をやっているお爺さんがいて、何度か話を聞いたことがあるのだが20年前、30年前の慶良間には本当にあふれるほど魚がいたらしい。
 僕自身も12年ほどの間に慶良間の海がどんどん変化していくのを見てきた。12年前、渡嘉敷島のビーチに入ったときの衝撃は忘れられない。ダイビングなんてする必要ないじゃないかと思うくらい魚があふれていたのだ。それが、4年ほど前に久しぶりにそのビーチに行ったときはその変わりように愕然としてしまった。

 話がそれてしまったが、2本目のポイントは慶良間内海、水中はまるでグルクンの養殖場のようだ。クマザサハナムロ・タカサゴ・ウメイロモドキとどれもほとんど同じような形の魚だが、どれも美しい。クマザサとタカサゴは非常に良く似ていて、尻尾のデザインが多少違うだけだ。水中では青く光るラインが太陽の光を受けて美しく輝く、ウメイロはオレンジ色の背中がなんとも幻想的で、大群で泳ぎ回る姿は実に感動的!

 そして、ここしばらく何度も目撃されているのが、巨大バラクーダだ。オニカマスという群れを作る魚だが、老成魚になると単独で行動するらしい。水面近くを泳ぐことが多いようで、水底にいてふと見上げると、丸太のようなバラクーダが悠然と泳いでいる。体長は1.5mほど、その胴回りのすごいこと!そしてその顔がまた怖い!
 ネットで調べると、かなり凶暴で危険な魚らしいのだが、沖縄でその被害に関する情報を聞いたことはない。余談だが、ダツのほうがはるかに被害の話を聞く。夜ボートから水面を照らすと、ダツがその光をめがけて飛んでくるというのだ。ダツの顎は長く鋭いので人の体に突き刺さるらしい。実際に写真を見たときは直視できなかった。目に刺さっていたのだ。 ?

   また、話がそれてしまった。とにかく魚は多いし、カメもたくさん出てくるし、もちろんコブシメも現れた。なんとも素晴らしいダイビングを楽しませてもらった。。




 「わかんないんでしょ、私のこと」
黒い髪の女性は笑顔で僕に近づいてきた。
―やっぱ、ばれてるなぁ。僕はあいまいな返事をした。
 「ふふ、香奈だよ〜」
 その瞬間、金髪で小汚いちっこい女の子の姿が目の前に浮かんだ。彼女がだれかわかったのだ。あの頃の彼女は某ダイビングショップのガイドで、他のガイドと同じように金髪・真っ黒・化粧なしの女の子だった。僕はシステムアドミニストレータだったこともあり、彼女のいるショップに何度かパソコンの指導に行っていたし、海で会うのも一度や二度ではなかったので良く知っている女性だったのだ。それも1年ほど前のことなのだ。あまりの違いに愕然としたが彼女は確かに香奈だった。
 しばらく前にショップを辞め、今はパソコンを使う仕事をしているらしい。
 「まいったなぁ、全然わからなかったよ。」


 いやはや、女は化け物などと言うが、今回は驚いた。少なくとも女性にはコブシメに負けないくらいの変身はできるようだ。
 ダイビングが終わり、那覇に向かうボートの2階デッキで、昔のように香奈をからかいながらくだらない話をする。二人で笑いながら受ける12月の日差しは暖かく、吹き抜ける風はこの上もなく爽やかだった。僕は限りなく幸せな気分で那覇へのクルージングを楽しんだ。




 ついに2003年シリーズ終了です。掲載は1月になってしまいましたが、いかがだったでしょうか?今回のシリーズは創作の部分もあったのですが、海の素晴らしさだけは創作できませんね。2003年の沖縄の海と、出会った仲間たちにありがとう。そして2004年も感動の海と素晴らしい出会いに恵まれますように!!

 さて、2004年シリーズは現在のところ概要も決定されていませんが、続けたいとは考えています。そこで読者の方からのご意見をいただきたいと思います。

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文・写真 流離のナイチャーダイバーF


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