6月 青い文字盤の時計


 2003年2回目のダイビングは、6月の初旬に予定を入れることができました。5月末からいきなり、2つの台風が沖縄をかすめ、晴れの日は飛び飛びに1日2日やってくるだけでした。ダイビングの前日は2つ目の台風が去っていった後で、とても良い天気だったのですが、この日は明らかに雨の予報、事実雨の中のダイビングとなりました。

 水の中に入るのですから、雨でもたいしたことはないのですが、やはり雨のダイビングは寒いしちょっと寂しいかなぁ。
6月も終わる今は、すでに梅雨も明けて沖縄は夏を迎えています。まだ梅雨前線が沖縄のすぐ北にあるので、その前線に向かって南西の風が吹き込んでいます。そのため天気はよくても海は多少波がたつのですが、これもこの時期だけに見られる風物詩なのです。



 沖縄の梅雨はなんだか不思議な季節だ。ゴールデンウィークの終わりには入梅宣言が出され、6月下旬には梅雨が明ける。しかし、宣言が出されると急に晴れの日が続いたりするんだ。そんな、梅雨の晴れ間にあたれば、かなりいいクルージングとダイビングが楽しめる。しかし、朝から完全な曇天、今にも降りそう、いやもうパラパラ降ってる。まいったなぁ。

 今回のダイビングツアーはかなりの大人数だ。港のトロピコ2号にはどんどんゲストが集まってくる。「いやー、久しぶりだね」とか「あれ、またあったね」とか、偶然に同じツアーで前に知り合った人と再会した人もいるようだ。沖縄ダイビングフリークは日本中にいるので、約束したわけでもなく偶然、沖縄の海で再会なんていうことが起こる。これは実に楽しい気分だ。僕もこうやってダイビングを続けているので、よく声をかけられる。毎週のように参加していたころは、「藤井さん、いつ来てもいますねぇ」なんて言われていたものだ。
 よく見ると着ているTシャツやジャケットにデザイン違いで同じチーム名が書いてある。仲間で作ったダイビングチームなんだ!聞くと東京と福岡からきているらしい。ダイビングはこんなグループを作れるのがいいところだ。僕以外は、全員仲間みたいな状態だったが、なんともみんな明るい性格で僕も一緒にツアーを楽しむことができた。

 そういえば、僕も東京にいたころダイビング仲間がいて、初めは3人ほどで潜っていたのだが知り合いを誘い始めて、あっというまに20人近くのグループができた。チーム名こそなかったが、週末はその中の数名と必ず伊豆へ潜りに行った。そんな昔の楽しさがよみがえってくる船上だ。







 この日の1本目は黒島北、最近ではツインロックと呼ばれることが多い。ここは本当によく入ったポイントで僕の大好きな海だ。でも待てよ、そういえば先月も入ったなぁ。慶良間にはほかにもいっぱいポイントがあるのだが、まぁいいや、ポイント選びはスタッフまかせよう。

 ポイントに着くといつものように、エントリーの準備。ここはアンカーを入れて潜ることが多いが今回はドリフトで入る。つまり流れが強いということだ。ドリフトで入るとまた違った気分でダイビングができる。

 ファンダイビングは普通インストラクターやガイドのコントロール下で行われるが、それでもアドベンチャー的な性格がある。自然を相手にする点ではスキーと比べることもできるが、スキー場のようにリフトのような人工物があるわけでもないし、人間によってダイビングしやすいように手を加えられているわけではないのだ。もっとも水中に何かを設置しても維持していくのは不可能に近いだろう。

 ダイビングは常に純粋な自然の中に入っていくもので、そこで見る生き物はすべて野生の生き物なのである。特に面白いと感じるのは、水面にはボートがあり文明の恩恵にあずかっているのだが、水面からすぐ下は自然のど真ん中だ。今時、山野に分け入って人工物の見えない世界に行くには、数時間の徒歩に頼るしか方法がないが、海では海水と空気の触れ合う境目に飛び込むだけで、通常の世界から自然の中へ入っていけるのだ。僕はその瞬間がたまらなく好きだ。

 ダイビングで体験できる20mほどの深度では、海のほんの表の薄い皮の部分程度なのだが、それでも地上をわずか1m離れるだけで目の前に野生の世界が開ける。さらに、季節・気候によって大きな変化を見せる。もちろん海には大きな危険性もあるのだ。だからファンダイビングは人と競う競争性を持たない。

 安全を確保するためにはさまざまな道具が必要になるが、水中で使える時計もそのひとつと言える。僕が始めてダイバーズウォッチを手にしたのは、初めてのファンダイビングの前日だ。ディスカウントショップで買ったもので、青い文字盤の安いアナログ時計だった。とても気に入っていたのだが、この時計をつけて100本ほどのダイビングをしたころ、海で失くしてしまった。伊豆のあるダイビングポイントで潜っていた時に、水中で外れてしまったのだ。正確にはベルトが切れたんだと思う。

 最近は、ほとんどダイバーが腕時計タイプのダイビングコンピュータを付けている。あれは実に便利なものだ。時間はもちろん水温から、深度から必要なことはほとんどこれだけでOKだ。

 ドリフトダイビングでは、船にひろってもらう場所と時間をスタッフが打ち合わせる。大体40分くらいであがるので、アナログの時計なら、ベゼルの0をエントリー時間に合わせ、潜水時間を確認するのだ。ベゼルを合わせるのはもちろんエントリー時間を忘れないため、別に水中で「今何時?」ってやるわけではない。

 失くした時計のことは、その湾に一軒だけあるダイビングショップのスタッフに言い残し、そのすぐあと僕は沖縄に移住した 。







 雨が降っているので、水中はどうしても暗い。それでも透明度は悪くないので、30mの深さの中層を泳いでも水底がはっきり見える。流れに乗って隠れ根に到着。夏を迎える6月はほんとに稚魚が多くて楽しい。黒島の海はキビナゴでいっぱいになる。そしてそれを捕食に大型の魚も集まってくるのだ。なかでもカスミアジはその美しさと大きさで、人気が高い。見ごたえのある魚だ。アジといえばギンガメアジの大群は最高だし、ロウニンアジの巨大さは大迫力だが、個人的にはカスミアジが好きだなぁ。

 黒島はいつも期待を裏切らないダイビングをさせてくれる。今回は特筆すべき生き物には出会えなかったが、最後はみんなで潮に流され中層をフワフワと飛んでいった。やがて水底がまったく見えなくなり、そして浮上。トロピコ2号を待った。唯一問題があった。それは寒かったのだ。体が冷え切ってしまった。

 今ではダイビングも3本入るのが普通、しかし僕はやはり2本で十分だ。しかも今回は結構体が冷え切っている。迷わず2本目はキャンセルだ。温水シャワーをガンガン使って体を温めた。

 ポイントはタマルル、穏やかな砂地のポイントだ。雨のなかエントリーが始まる。「あれっ?藤井さん入らないの?」みんな元気だなぁ、僕一人と船長だけが船にのこった。1本目であれだけ体を冷やして、暖まらない状態で2本目に入ればかなり冷えるに違いないと踏んでいたのだが、上がってきたダイバーたちの口から出た言葉は予想どおり。「寒い!寒い!」3本目キャンセルの声があがった。

 全員が上がったところで、お昼ご飯の時間だ。すっかり仲良くなっていたので、僕もチームの仲間になった気分で昼食を取った。やはりダイビングの話で盛り上がる、ひさしぶりに海で出会うダイビング仲間は実にいいものだ。 数年前、いつものようにトロピコのツアーに参加していた僕にある人が声をかけて来た。「藤井さん久しぶりですねぇ」ん〜っと、そう言えばどこかで見たような。1年ほど前にやはりトロピコツアーで知り合った東京のダイバーだ。こうやって、沖縄に住んでしょっちゅうダイビングをしていると、たびたび沖縄にやってくる本土のダイバー達に覚えてもらえるのはなんとも嬉しいかぎりだ。

 実はこの人からすばらしいプレゼントをもらった。「お土産があるんですよ。」彼はバッグのなかから、茶色の紙袋を取り出した。「これもしかして、藤井さんのではないですか?」何のことかさっぱりわからず袋を逆さにして、出てきたものに驚いた。それは文字盤の青いあのダイバーズウォッチ。「うわぁ、なんでこれが?」約3年ぶりのご対面だった。




「3本目はどうしようか?」「寒いしなぁ・・・いいところなら入りたいけどなぁ・・・」と悩めるダイバーたち。僕はゆっくり休みを取って体も温まっていたので、その気満々。ポイントは男岩に決定した。

 男岩はイソマグロをはじめ回遊魚に出会える海だが、人気のひとつはハナヒゲウツボか?青いリボンのような魚で、いつも同じ場所に一匹いるのだ。確かに綺麗なのだが、僕はそれよりもナンヨウハギのほうが興味がある。この魚も青が美しくあまりほかのポイントでは見ることがない。青い体に黒いライン黄色い尻尾となかなか他にないデザインで実に美しい。あまりダイバー同士の話に出てくることもないのだが、ニザダイも結構いいんだけどなぁ。

 40分ほどのドリフトダイビングを楽しみ浮上、思ったとおりそれほど寒くはなかった。

 さて、文字盤の青い時計はどうやって戻ってきたのか。僕が時計を失くした海は、完全に閉鎖されたような湾内で非常に狭い入り江だった、ダイビングをするコースも限られている。だから水底に落ちていた僕の時計も、意外と早く発見されたようだ。そのせいか腐食もほとんどなかった。僕の家の電話はすでになくなっていたので、連絡のとりようもなく1年以上ショップに放置されたのだが、僕の名前と「沖縄」というキーワードが残った。たまたま、伊豆のその湾で潜った知人が、スタッフから僕に違いないだろうということで預かってきたらしい。

 もちろん時計は止まっていた。よくそんなものを捨てずにおいてくれたものだ。見た目はそれほど悪くない。懐かしいやら驚くやらで、僕はそのダイバーに礼をいい、ショップにもお礼の葉書を書き送った。そしてものはためしで電池を交換してみたところ、なんと動き出したではないか。今日のダイビングでも、僕の左腕にはこの時計がついている。今時こんな安物の時計を付けているダイバーもいないだろう。かろうじて潜水時間がわかるだけだが、これは僕のちょっとした宝物なのだ。

 海でなくした時計は海で得た友人の手で、僕のところに戻ってきたというわけだ。





 6月になって梅雨が明け、しばらくしたころにトロピコのショップに出かけると思わず「うわっ!」と声が出てしまいます。スタッフが真っ黒・金髪になっているんです!ここのところスタッフの顔を見ていないので、次に会う時はまた、「うわっ」となるに違いないと思います。
 実は、僕もデジタルのダイバーズウォッチを一時は使っていたのですが、2度ほど電池が切れになってからは使わなくなりました。機能が高いだけに電池の減りも早いんです。今使っている青い文字盤の時計は、電池が長持ちしますよ。(笑)
 次回は7月、強烈な暑さが沖縄の夏だ。体験していないダイバーがいたら、ぜひ沖縄の夏の海を見に来てください。もちろん日焼け止めは忘れずに。
 


文・写真 流離のナイチャーダイバーF


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